キノコの系統進化と多様性:地下生菌を例に

 

Tuber (トリュフ)

Rhizopogon(ショウロ)

Alpova

Melanogaster

Richoniella (Entoloma)

Hymenogaster

Hysterangium

Sclerogaster

Glomus     

主な対象分類群

 菌類のなかには、地上だけでなく地下に子実体を形成する分類群も存在します。こうした分類群を一般に地下生菌とよび、高級食材として知られるトリュフやショウロ(松露)が有名です。地下生菌は、担子菌、子嚢菌、グロメロ菌にわたって広く存在し、子実体を地上に形成する分類群から、独立に何度も進化してきたことが分かっています。 また、地下生菌の多くが、植物と共生関係にある菌根菌で、生態系を支える重要なメンバーの一つとして知られています。アジアの温帯域では、菌根菌の多様性は極めて高いため、いまだに発見されていない種が数多く存在すると考えられています。

 本研究では、日本を中心に、アジアに存在する地下生菌の多様性や進化的特性の解明を目的とし、国内の協力者とともに、研究を行っています。

地下生菌の探索の様子

見つかった地下生キノコ(ショウロの仲間)

 トリュフは 高価な食用菌として有名なだけでなく、子嚢菌類に属し、植物と共生する外生菌根菌として、世界で86種が知られています(Dictionary of the Fungi; Kirk et al. 2008)。これまでヨーロッパが中心となって、本属の種多様性や起源などの議論が進められていましたが、アジアでは種数すら把握されていない状況でした。

 本研究では、日本のトリュフ属の種多様性や系統進化を明らかにするため、菌類懇話会・佐々木廣海氏をはじめ、全国の菌類研究者や博物館の協力によって、10年間かけて日本全国から採集した186個の子実体を対象に、解析を行いました。子実体からDNAを抽出し、菌類の種の判別に用いられる、リボソームDNA上のITS領域の塩基配列を解読し、種数を決定しました。さらに日本種の進化的特性を調べるため、塩基置換の少ない(保存された)領域(rDNA LSU, EF1-α, rpb2)の塩基配列も解読し、既知種を含めた分子系統解析を行いました。

 ITS領域の解析の結果、日本のトリュフは20種存在することが明らかになり、統計学的な計算では、潜在種数を含めると少なくとも40種は存在することが推測されました(図1参照)。さらに分子系統解析の結果、日本種は5つの系統群に属し、そのうちの2種によって、これまで知られていなかった新たなグループが形成されました(私達はこのグループをJaponicumと名付けました:図2)。また、トリュフ属の祖先グループに2種含まれることも明らかになりました。分子系統解析によってもたらされたもう一つの知見は、日本種は、同じ大陸起源をもつ中国や台湾種との系統関係が密接であるということでした。つまり、トリュフの繁殖が、動物による子実体の摂食や、樹木間の菌糸の連結による小規模の拡がりによって、長い時間をかけて多様になったことを裏付ける証拠の一つであると考えられました。

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日本で見つかったトリュフ

トリュフの胞子

日本のトリュフ